愚直であれ

アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏が引退しました。彼の伝説のスピーチといわれているスタンフォード大学2005年卒業式で、

Stay foolish. (愚かであり続けろ)。私は常にそうありたいと願ってきた。そして今、皆が卒業して新たに歩みを始めるに当たり、皆もそうあって欲しいと思う」と結んだ、と最近知った。

このすばらしいスピーチを知って、これと似たような事をつい先日TVで家具のニトリ社長から聞いたのを思い出した。それは、NHK「仕事楽のすすめ」で勝間和代さんのインタビューに答えて
 
当時チェーンストア理論で会社を大きくせよと提唱している渥美俊一先生の教えを請うことにした。数字は嫌いだったし、理解できず頭の痛くなるような嫌な話ばかりだったが、毎月通った。あるとき、先生が店舗を訪れ、一から十まで徹底的に罵倒された。余りに大きい声で怒られるものだから、コーヒーを運んできた女子社員の手が震え、コーヒーカップがコトコト鳴っていたのをよく覚えている。その後2年間ほど縁切りだったが、矢張り二進も三進(にっちもさっち)も行かず、「もう先生に何されてもいい」と再び先生の門をたたいた。私が一番できの悪い生徒で全然相手にしてもらえなかった。当時100店も200店も展開しすぐパッと答えられるような人が何人もいたが、私は鈍重ですぐには何も答えられなかった が、徹底的に先生のお言葉に従うことにした。そのうち、先生が「鈍重こそいいんだ」と言ってくれた。
司会者 「鈍重っていったいどういうことですか」
似鳥 「にぶくてのろいが、素直で一歩一歩前進するということでしょうか」。


また8月24日の日経新聞には、200年企業として藤戸饅頭本が紹介されていた。

金本家の当主では「813年生まれの亀三郎まで7代さかのぼることができる。
当初の饅頭は餅に近いものだったが、江戸時代に改良が加えられ、餅米で作った甘酒の搾り汁と小麦粉を練って発酵させた薄皮でこし飽(あん)を包み、蒸すという現在の製法が幕末のころに確立した。
 金本社長は「目先の売り上げ拡大のために増産や多角化を考えない」と言い切る。先代は紅白饅頭やもなかも作っていたが、現在は藤戸鰻頭の単品生産。1990年に本店から車で10分足らずの場所に工場兼店舗大串田店)を開設、17人の従業員で多い時には1日に数万個を製造する。
 10個入り630円と単価は低い。殺菌力があるとされる竹の葉で饅頭を包む。昔と違うのは「衛生面により配慮して」1つずつ薄いセロハンでくるむことくらい。保存用添加物などを使わず、賞味期限は製造日から3日七短い。贈答品や土産物ともては難があるが、逆にこうした低価格、短い賞味期限といった制約が地元固定客の安定需要を掘り起こすモチベーション(動機)につながっている。・
映画のロケ地としての知名度向上もあり、大手小売業やネット通販業者から藤戸饅頭の引き合いが増えているが、金本社長は慎重な姿勢を崩さない。高島屋との取引を2年ほど前に始めたが、店は東京・新宿と名古屋の2店、しかも月1〜2回の催事限定だ。「慎重といわれても製法の改良や小豆、砂糖の相場は日々気にかけている。経営努力は見えないところでやる。それが長く続ける秘訣」と金本社長は説明する。
 
人にはその人なりの器がある。何しろ、私の出は哲学科だけに線が細いのかも知れない。こんなことを言うと「だからお前は哲学を知らないんだ」と怒られそうですが・・・・。

20数年前会社を立ち上げるとき、Shine On the Corner(一隅を照らす)からSOCとしたが、私は、大成功は望むべくもないと思っている。しかし、生活の安定は望んでいる。大成功には、毀誉褒貶、山あり谷あり、辛酸など波乱万丈がつきもので、私はそうしたものをこなすだけの甲斐性を持ち合わせていない。それに引き換え、この藤戸本舗の安寧さはどうだろう。この会社のコンセプトは、珠玉の言葉の連続だ。我が社も何十年経っても基本的にはこんなコンセプトで進んで行きたい。

<追加>
そういえば、宮沢賢治が、「雨にも負けず、風にも負けず・・・日照りの時は涙を流し、寒さの夏はおろおろ歩き、みんなにデクノボーと呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず、そういうものにわたしはなりたい」と手帳に書き残してあったそうである。
 ニトリ社長は「鈍重」といい、スティーブ・ジョブ氏は、「Stay foolish. 愚かであり続けろ」という。藤戸饅頭の社長さんも結局、みな同じことを言っているようだ。