政府と大企業は国内のマーケットを拡大させよ

2月19日日経新聞 経済政策を「改革」する時  特別編集委員 末村 篤

   

米国の住宅バブル(資産効果)による消費主導の成長と、中国など新興国の投資主導の成長による世界経済の需要拡大で潤ったのは外需の恩恵を直接受ける大企業・製造業だ。鉄鋼、自動車などの輸出産業は高度成長期以来の二ケタ近い売設備投賢を増やしながら労働分配率を大幅に引き下げて、空前の利益を上げた。 
対照的なのは内需型産業の中小企業・非製造業だ。この間、売上高は横ばいで雇用と賃金を圧迫され続け、設備投資を抑制しながら労働分配率は高止まりし、利益の改善もない。問題は大企業・製造業の雇用は全体の一割にも満たず、中小企業・非製造業が雇用の六割を占めることだ。

グローバル化の明暗と言われるが、極端なコントラストの背景には政策運営がある。財政支出は縮小、増税社会保険料の引き上げで国民負担は増大、超低金利で資本の海外逃避を促し、利子所得は目減りしたまま……。円安と一次産品値上がりが追い打ちをかけ、購買力が海外流出する実質的な増税効果が加わる。 国内需要、とりわけ個人消費を圧迫する悪条件がこれだけ重なれば、経済が拡大せず、サービス産業へのシフトが進まず、中小企業・非製造業の生産性が向上しないのは当然だろう。
 
しかし、日本の大企業・製造業の競争力は強化されたが、需要と価格(為替)両面で厳しい局面を迎える。そこで大事なのは輸出産業にとって母国市場の重要性だ。世界最強の製造業と言われるトヨタ自動車でも国内では利益がほとんど出ていないと言われる原因の一つに国内市場の疲弊があるのではないか。


全くご指摘の通りである。日本に景況感がないのは、政府の政策と大企業の人件費の抑制にある。と、普段思っているところに、2月8日、NHKで夜の11時からの『ドキュメント現場 〜出稼ぎアパート冬物語〜』で、トヨタの過酷な労働の実態を放映していた。

人材派遣会社の寮として使われているところに、北海道から沖縄まで故郷に家族を残して出稼ぎに来ている男たちの物語である。トヨタ関連会社の部品工場で日勤と夜勤を続けている。妻子を離れて青森県から働きに来た元会社員。最低賃金が全国で最も安い沖縄から来た25歳の若者。市町村合併でリストラに遭った元自治体関係者。

私は、初めのうちボンヤリ見ていたのだが、ウン?!と思ったのは、番組のちょうど真ん中辺で、「契約期間(3ケ月)の満期を待てずに夜逃げ同然で約半分の人が職場を去って行く」というナレーションを聞いた時である。出稼ぎに来た人は相当の覚悟をもって、遠路愛知県三河にやって来たはずである。その人たちの半分も堪えきれないというのだから、ことは尋常ではない。私は常々大企業の横暴を言ってきたが、「純利益1兆8000億も出している超優良企業がなぜこんな過酷な労働を強いるか」ということであった。儲けた分全部吐き出せとは思わない。というのも、昔GMが今のトヨタのように儲かって儲かって仕方がない時に決めた年金制度が、今GMの足を大きく引っ張っているのを知っているからだ。しかしだからと言っていくらなんでも、厳しすぎるではないか。労働者や下請けを極限までに虐げているように見えた。

トヨタトヨタなら、キャノン・松下電器といった大企業も偽装請負を続けていたと問題になっている。日本のリーディングカンパニーが軒並みこのようなことをやっていたら、日経のいう「個人消費の拡大」などとても不可能な話である。景気が良くなる訳がないばかりか、一番弱い人から搾取しているということになれば、その非は赤福や吉兆の比ではないのである。などと考えていたら、2時をとうに過ぎても寝られなくなった。