毒入りギョウザで思うこと

世間では、中国製冷凍ギョウザに、なぜ有機リン酸系殺虫剤「メタミドホス」が混入したかの謎解きに躍起になっている。当局の調査結果を待つしかないが、私自身は中国国内で人為的に混入された可能性が高いと考えている。そう考える根拠、つまり、このような事件が起こった本質について少し考えてみたい。

日本では、できるだけ自国通貨(円)を安く抑え込んで大企業に輸出させ、外貨を稼いできた。その上、国際競争力をつけるための輸出振興策の一環として従業員の賃金は低く抑えられてきた。このことは以前にも話したとおりである。
では、今回、毒入ギョウザで話題の中国はどうであろうか? 中国政府も日本以上に自国通貨(人民元)を安くし、輸出拡大と低賃金労働によって外貨を稼ぐ経済政策をとっており、中国は「世界の下請企業」と呼ばれる所以である。共産主義国家であるにもかかわらず、国営企業がどんどん民営化され、経営者としてのリスクを冒した経験のない安穏とした元公務員(共産党員)たちが、そのまま社長の座に着くことになった。わたしは、人の10倍努力したり、リスクをとったりして成功した人が、2倍位の収入を得る社会がいいと思っているが、中国では、そんな苦労知らず・努力知らずの社長にもかかわらず、社員の給与の100倍などという途方もない高額報酬をもらっており、日本とは比べものにならない賃金格差が生じている。
世襲的な高級官僚層や高額報酬を受け取っている経営者層が組織を牛耳る中で、大きな不満や不公平感を抱く労働者層や、中国の将来に危機感を抱く知識層が現れるのは当然のことである。つまり、中国の国家としての社会構造そのものが、不安定な社会を生み出す諸悪の根源となっている。今回のギョウザ中毒事件が人為的に引き起こされたかどうかは別としても、遅かれ早かれ、起こりうるべくして起こった問題であると思う。

問題のギョウザを製造した「天洋食品」の社長の給与はいくら取っているか知らないが、その工場で働く「天洋食品」の従業員の月給は、7〜9百元(1万〜1.3万円ほど)で、毎朝7時から夜7〜8時、時には10時にもなるというのだから悲惨である。同社工場のハード面(機械設備や品質管理のマニュアル化等)は最高レベルらしい。しかし、いくら工場のハード面を整備しても、そこで働く従業員の思いや、職場の雰囲気がよくなければ、良い商品、良い会社を実現することなどできるはずもない。「神は細部に宿る」。一人一人こそ大切なのである。それなのに、経営者は、政府が改悪した労働法令をいいことに、10年以上勤めた44歳以上のベテラン社員をまとめて解雇して新たに再雇用して賃金コストを切り詰めるなどやりたい放題である。今回どの過程で毒が混入されたかわからないが、不公平な社会を何とか転覆したいと思う人間が出てくる要素は濃厚なのだ。

そもそも、世界の先進国の食品自給率がほとんど100%なのに、わが日本だけがわずか40%程度しかないという有様である。今回の毒入りギョウザも中国から輸入されたものである。買ってくれるお客様(つまり日本)は絶対の権力をもっており、本来ならばお客様に言いたいこともこらえ、お客様の言うことに従わざるをえない。そのお客様が、輸入食品の安さに胡坐(あぐら)をかき、消費期限切れのものは食べない、食べ残したら惜しげもなく捨て、不良品は出すな、曲がっていたらいけない、小さくともいけない、欠品は出すな、である。作っている人はただ同然で働いているのである。こんなからくりで、いつまでも安くて良いものを安定的に輸入し続けることができるわけもない。日本はどんな犠牲を払ってでも、一日も早く、食品を自分の国でなんとか自給できる体制にしなければならない。

日本の農業政策の抜本的な見直しについては、自民党民主党の争点の一つになっているが、一刻を争う問題であるという危機感がまったく伝わってこない。地方には休眠している田んぼがごろごろころがっている。その一方で、60歳を超えてリタイヤし、小さな田んぼでも耕して晴耕雨読の生活をしたいという願望を持ち、仕事さえあれば田舎暮らしもいいと思っている人たちがたくさんいるのである。日本国民は日本の食料自給率100%化に向けた生活スタイルの見直しをすぐにでも始めるべきである。