魚たちの大進化にみる環境適応力

月曜ミーティング〔2011年6月27日(月)〕議事録より

NHKスペシャル「東アフリカ:神秘の古代湖―怪魚たちの大進化」
東アフリカには、ヴィクトリア湖タンガニーカ湖、マラウィ湖を中心とする古代湖があり、これらは、6000キロに渡る大地溝帯と呼ばれる巨大な台地の割れ目に水がたまってできたもので、古代湖の言葉どおり数百万年前に形成された古い湖だ。

中でも代表的なものは「シクリッド」と呼ばれる魚で、見た目はきれいだが、気性が荒く、争いごとも絶えない。その仲間は3つの「古代湖」に合計1800種にも及ぶが、それらはすべてたった一種類のシクリッドから分かれた。それも、この数百万年の間に進化の枝分かれをしてきたという。わずか数百万年の間に、これだけの進化が進むことは、普通の状態ではありえないという。人間がチンパンジーとの共通の祖先から枝分かれしたのが7百万年前のことからすれば、驚異的な進化の早さだ といわねばならない。
小さなシクリッドは大きなシクリッドに食われる。その大きなシクリッドも、自分の子どもを小さなシクリッドに狙われる。といった具合で、どんな種類のシクリッドでも、常に食われる危険にさらされている。その危険が子どもを口の中で育てるという、めずらしい習性を育んできた。

古代湖にはシクリッドのほかにナマズも住んでいる。そのナマズの中に、奇妙な行動をするナマズがいる。シクリッドの口の中に自分の卵を生んで、シクリッドに育てさせるのだ。カッコウの託卵と全く同じことをやっているわけだ。ナマズの卵はシクリッドよりも早く孵化するので、先に生まれたナマズの子がシクリッドの子を食いつくし、口の中に居残るのだ。それを親のシクリッドは自分の子と思って大事に育てるというから、お見事というか恐ろしいというか、とにかく自然界の生き様に驚くばかりだ。

なぜ、ここに棲む魚だけがこのような進化を遂げたかと言えば、古代湖の中では生存競争が厳しく、互いにそのように進化を遂げなければ生きてはいけなかったからだ。それが進化を促した最大の要因らしい。通常、湖は、回りから流れ込む土砂で、どんなに大きな湖でも、1万年程で埋まってしまうが、東アフリカの湖沼群が数百万年もの間存在してきたという。それは、1000万年前に始まったという大地の陥没が今でも続いており、年々深くなってゆくので埋まることがないそうだ。その結果、通常の湖ではその中で進化があったとしても湖が埋没すればそこで一旦チャラになってしまうが、このアフリカの古代湖に棲む魚たちは、連綿と進化し続けた。そのうえ、大地が陥没してできた湖であるため、魚の生息できる環境が岸辺沿いのわずかな部分に限られていたので、生存競争が激しく、のんびり暮らしてなどおれなかったのだ。

結果、ここに棲む魚たちは、実に類まれな進化を遂げ、色や形、大きさ、生き方にいたるまで、様々な熱帯魚が生息している。生存競争は熾烈で、24時間365日、常に食うか食われるかの危機的な状況下にあって、ここに生きる全ての魚が人間顔負けの、高度な知恵を使う。たとえば、えさを捕らえるときなど、捕らえるために、実に様々な工夫で獲物を狙う。砂の中に身を潜めるものや、死んだふりをするものなど、すばらしい知恵者だ。それに比べて海に棲むサンマやイワシや湖沼にに棲む小魚たちは幸福だ。弱肉強食の世界ではあっても、古代湖よりはずっとずっと平安な世界だから、さして進化もしていないし、その必要もなかったのだろう。

振り返って我々の日常を考えてみれば、時流に適応せよ、チェインジだ、イノベーションだ、進歩だ、新商品の開発だの、実にかまびすしい。我々現代人はそれだけ過酷な環境下にあるということだろう。最も進歩の著しいのは、ITとかテレビやカメラの世界だ。「これが最新」と言うものが一夜にして陳腐化してしまう。まるでマラウィ湖に棲む魚たち以上に変化しなければ生きてはいけない姿を映し出しているようだ。一時の安寧も許されない世界だ。

程度の差はあれ、建築でも商業でもどの業界でも停滞は許されない。比較的穏便な世界は食品だ。それでも、遺伝子組み換えなど日進月歩だし、昨日のTVによれば、ずっと昔からある代表的なものといえば醤油だが、それが、いまや独自の「超高圧製法」で、塩分を一般的な醤油の1/8に抑えながらしっかりとした旨味のある減塩タイプのものができるという。こういうものが出てくれば、昔からのお醤油はひとたまりもないだろう。それに引き換え「水」は、これから100年も1000年も代わりの水など考えられない。真面目にやっていれば変わらなくとも生きてゆけるというのは、それだけ平安な世界に生きているということだ。感謝したい。その分、大きくは伸びないが・・・。