日本のTV報道への疑問

 週刊新潮6/26号より


 

終ってみれば、これが日本の実力なのか。サッカーW杯グループリーグの結果はご承知の通りだが、それにしても、サッカー解説者たちの戦前予想は一体なんだったのだろうか。ベスト8だ、ベスト4だと華々しく花火を打ち上げたが、これじゃまるでホラ吹き大会だ。
 全くもって景気の良い話ばかりである。「過去最強。本当にベスト8、ベスト4に行く力を持っている」。 こうぶち上げたのは元代表ミスターレッズ福田正博氏。岡田武史前日本代表監督の発言も耳に心地良い。「ベスト16と言わず、少しでも上を。2002年日韓大会で韓国は4位だ。日本も可能性を持っている」。 グループリーグ初戦のコートジボワール戦を前に、「背が高くて相手の攻めを抑えるのは大変だが」守備に不安があり、日本の攻撃力が上回る。「ベスト16」 と胸を張ったのは、かつての代表チームの守備の要、秋田豊氏だが、逆に後半守備が崩壊したのが日本チームだったのはご覧になった通り。熱血というか絶叫解説でお馴染みの松木安太郎氏はどうかといえば、「グループリーグは2勝1分け。ベスト8まで行く」。 まあ何ともお気楽な予想だが、さらに楽観的なのは、元代表本田泰人である。「グループリーグは2位で突破。イタリア、スペイン、アルゼンチンを破り、決勝戦でブラジルに負ける」。 何と、決勝戦が行われるマラカナンスタジアムのピッチに日本代表が姿を現すというのだ。ここまでくると予想というより、夢というしかないが、目の前にある現実は相当に厳しい。


 TV報道とはいったい何なんだろう。何とも絶望的な状況ではないか。初戦で敗退するなどとは、どの解説者からも一言もなかった。私の記憶では「そこまで言って委員会」で元日本代表釜本選手が、悲観的弱気な発言をしていたが結局彼が当たっていた。「そこまで・・・」が人気があるのは、あれを言ってはいけない、これはダメだというタブーが少ないからだろう。今更ながら「たかじんさん」の功績は大きかったと思う。
日本の場合、W杯や五輪といったスポーツイベントでは、メディアの報道は常にスポーツナショナリズムに染まっている。あくまで自国中心で、それ以外のことには目もくれない。テレビで特に顕著で、日本選手を執拗に取り上げてヒーローに仕立て上げていく。コメンテーターにも同じような発言を求め、応じないと出演させてくれない。批判的な意見が排除されてしまった結果、根も葉もない?ホラ吹き解説″ばかりがはびこり、毎回毎回聞かされているTVの視聴者は、「きっと日本はいいところまで行くに違いない」と思い込む。その結果、余程の勇気がない限り「俺は惨敗すると思うよ」とは言えなくなる。
同じようなことが連綿と続く。例えば、或るディレクターがレストランを訪ねる場面である。そこで試飲すると全部が全部、例外なく「おいしー!!」という。こういうバカげたことが相も変わらず繰り返されている。TVの人気が日に日に落ちているらしいが、そのうちTVで言っていることを誰も信用しなくなるのではないだろうか。