改革者橋下徹氏と堺屋太一氏とやしきたかじん氏

堺屋太一氏は、既に1976年(昭和51年)小説「団塊の世代」で、25年後の2000年時点での年金や医療保険の破たんを予測している。少々長くなるが、その最後の部分を抜書きしてみた。

 「この資料の多さと事業内容の多様さは、政府の老人対策に対する熱心さを象徴しているともいえたが、同時にまた老齢化社会に向いつつある日本の厳しく暗い現実を示すものでもあった。数多くの役所が、これだけ多面的な老人対策をやっているにもかかわらず、老人の中には満足しているものも幸せなものも少ないのである」
 「もう何十回となく見て来たものだが、やはり福西には新たな驚きが湧く。彼が役所に入った当時は、国家予算全体がまだ十兆台だったのだから、老人対策費だけで五十兆とか六十兆とかいうのは、信じ難いような気がするのである」
 「福西はがっかりした。予算枠全体の伸びが四パーセント未満というのに、老人対策費を三兆八千億、七・三パーセントも伸ばすことは許容されそうにない。福祉年金というものが、いかに高くっくものか、福西は改めて驚かされた感じがした」
 「何しろ日本の失業保険制度は、超完全雇用だった一九六〇年代にできたもんだからね、その後何回か改正はしているけど、最近のように失業者が増えると毎年大赤字になるんだねえ。まあ、これも抑えられん支出増の一つだよ」
 「来年度は国民総生産が二・七パーセント縮小する。つまり日本全体がそれだけ貧乏になるわけだ。それはつらいことだが仕方がない。せめて、一億四千万人の日本人が、それを公平に負担するようにすべきじやないか。あんたらはそう考えんのかね」
 「そんなことを続けていたのでは、やがて若い世代の反乱が起るかも知れませんよ」
 「いやいや、それも若い世代の感情かも知れんが、やはり前にもいったように、老人を社会として扶養するのは国民の義務だからね。それに何といっても、今の老人、いやこれから十年十五年の問に老人になる人たちも含めてだが、その人たちこそ、あの高度成長時代を演出し、今日の豊かな日本を築いた功労者なんだからね」
 「僕らはむしろ責任者だと思いますよ。あの高度成長時代、いやそれに続く七〇年代・八〇年代の、まだまだ日本に力があった頃を無為無策に過して来たことの……」
無為無策だったかね……」
「そうですよ。だから今、僕たちはエネルギー問題や財政問題で苦労してるんじゃないですか」
「先のことを考えないで、福祉だとかレジャーだとかで民族のバイタリティーをことごとくその日の消費に使ってしまった責任世代なんですよ」
福西はかつてない程の大きな衝撃を受けた。子供の頃から特別に人数の多い世代として、終始苦労して来たと考えていた自分たちが、レジャーと福祉で全てを消費した責任世代だといわれたことが、鋭く胸に剃ったのだ。
だが、衝撃を受けたのは福西ただ一人のようだった。若い男女の職員はもとより、三十代の係
長も四十代の庶務主任も大友の言葉に同意するようにうなずいているのだった。
「民族のバイタリティーというのは時代の産物ですからねえ……」
「そうですよ。日本民族の春と夏は短かかったんですよ
 大友がいつになくしんみりした表情でいった。
「そうか、今は民族の秋か……」
 福西裕次は力なくつぶやいた。その心の中からは、(冬の準備を急がねばならん・・・)という声が聞えていた。
冷えこんだ室内には、二十世紀があと正確に二十四時間になったことを告げる電子音が低く響いていた…‥。  

今から36年も前に堺屋氏は、今日の年金破綻・医療保険の破綻を予測していた。これに対し、政治家もお役人も何の手も打ってこなかったのである。このあたりは、日本列島に過去、何回も20m30mもの大津波が襲ったという痕跡が地層にはっきりと残っているにもかかわらず、原発で何にも手を打ってこなかったことと酷似している。
大正3年鹿児島県桜島が大噴火した。当時の村長が、学者の「噴火は来ない」という言を信じ村民を非難させなかったのを悔いて碑を建てたという。「科学不信の碑」として名高い。政治家でもロクなのがいないように見える。しかし政治家や科学者をなじっていても何も始まらない。我々が絶対なすべきことは真に立派な人を見出し支持者になることだ。
 堺屋氏は『油断』『平成三十年』などで、日本の将来を鳥瞰し、警告を発してきた。それらの指摘は、同時代のいかなる評論家よりも正確であったと私は敬服している。
橋下徹の指南役が他ならぬこの堺屋氏である。橋下氏のこれまでの改革はすばらしい。絶賛する。しかし、一面やや不安な点もある。今や、橋下氏は絶大な権力を持った。にもかかわらず、これまで通り今後も堺屋氏を指南役として良好な関係を保ち続けて行くならば、橋下氏を信用できる、と思うのだがどうだろうか。
橋下氏が初めて知事候補として政界に進出しようとした時、やしきたかじんさんのバックアップが最後の決め手になったらしい。今後、橋下氏と堺屋氏の意見の対立は必ずある。堺屋氏が自説を曲げることはありえない。そのとき、両者の間を取り持てるのはやしきさんしかありえない。早く病院からの復帰を願うばかりだ。