「市場の神様」「マエストロ(巨匠)」「自由市場絶対論の伝道者」と最大の賞賛を浴びたあのグリーンスパンが誤りを認めた。

 これには驚いた。
 もともと、新聞でも雑誌でも、TVでも、評論家達がこぞって、偉い偉いというから、私も「余程偉い人なんだろう」と思ってきた。それと、これがまた大問題なのだが、ブッシュ政権と連携して、この新自由主義経済政策を強力に推し進めてきたのが、前小泉首相である。制度疲労の日本を改革しなければならないと思っていたし、当時のメンバー竹中半蔵・太田弘子・本間正明氏なども清新に見えたので支持したのである。ところがである・・・

 そもそも、ウォール街というのは、常に本能的な貪欲さに駆り立てられて機能してきた。だから、他の部門は兎も角として、少なくとも金融商品だけは、厳しい規制が必要だった。それにもかかわらず、最小限の規制、金融緩和、住宅ローンバブルの最中もリスクを黙認、市場に大きなショックが走ると、ためらうことなく政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利を引き下げ、資金を市場にだぶつかせ、サブプライムのようなとんでもない住宅ローンを生み出すなどして、混乱を防いできたが、その結果、債権を細切れにして証券化するなどという訳のわからない金融手法をはびこらせてしまった。この自由放任という手法が、金融機関や投資家のモラルハザード(倫理の欠如)を招き、100年に一度という危機に陥れた張本人たちに、莫大な給与や退職金を払った上に、ウォール街を炎上させたのだ。
 
 アメリカは今回、非常に毒性の強い金融商品、恐るべき猛毒の住宅ローン担保証券を世界中にばらまいたのだ。廃墟に残ったものは、余りに隔絶してしまった格差と、1933年に始まったニューディール政策以来最大級の市場介入という、規制緩和とは全く逆のことだった。
 
 考えてみれば、いまだに郵政民営化が良かったのか悪かったのかはっきりしないし、竹中平蔵元郵政相は、日本はアメリカを見習って金融大国になるべきだと論じていたし、調子のいい経済学者はその尻馬に乗って「日本は製造業にこだわるのをやめて、金融にシフトすべきだ」などと言っていた。金融を国策として推し進めたアイスランドは、今国家としての存亡の危機に瀕している。
 刺客として送り込まれたホリエモンを始めとした面々も変だったし、それを迎え打った野田聖子自民党の先生方も変だった。郵政民営化反対なら反対でいいのだが、途中で賛成に転向してしまったのだから唖然とする。

 製造業を大切にしなければならないのに、大企業優先の輸出一辺倒、派遣の自由化で、身分が不安定の人たちが増えてそれが社会犯罪を犯す、大企業は史上最長の好景気だったのに給与はむしろ下がった。6月25日の日経新聞によると、「上場企業の4割が実質無借金」だそうである。それなら、もっと給与をあげてやれ!と言いたくなる。これでは内需が拡大するはずがないから、いつまでたってもアメリカが風を引くと日本は肺炎になるという状況が続くことになる。円が上がっても素直に喜べないのである。

 グリーンスパンを崇拝する投資家も多く、当時、氏と食事を共にできる権利がネットオークションに「出品」され、4万5000ドル(約522万円)の高値で落札されたりした。この一事だけでも「グリーンスパンはおかしい」と思わなければならなかった。アメリカ経済を大恐慌以来、最大の混乱に陥れた張本人のグリーンスパンに信奉した小泉政権の罪は重い。小泉氏の後継者問題で、この一事だけでも彼の心底が判ったような気がした。